AIエージェントはもう広告を買えるのか — 2026年夏の実装状況と15週の実測

2026年5月18日に公開したPrebidウェビナー速報では、Seller AgentとBuyer Agentの実装フェーズ入りと、Brian O’Kelley氏(Scope3)の「Supply Constrained(供給制約)」発言を、関連会社SEデジタルの接続検証で裏付けました。あれから3ヶ月。エージェンティック広告の世界では、標準化団体・プラットフォーム・代理店ホールディングスのそれぞれで大きな発表が続きました。

本記事では、(1) IAB Tech Lab と AdCP 陣営の最新リリース、(2) The Trade Desk「Ask Koa」「Kokai Zuma」やX・Meta・GoogleのMCPサーバーをはじめとするプラットフォーム側の動き、(3) SEデジタルが5月から毎週続けてきたBuyer Agent巡回15週分の実測データ、(4) 日本市場の動き — を整理し、日本のパブリッシャー・代理店・アドテク事業者への示唆をまとめます。

CEESAWではAdCPの基礎解説ARTF対AdCPの標準化動向IAB Tech Lab Agentic Advertising Initiative解説Prebid Sales Agent発表の解説と継続的に追ってきました。本記事はその続報です。

【2026年9月1日 追記】 公開後、業界の先達から本記事の分析を一歩先へ進めるご指摘をいただきました。ご指摘はもっともと考え、本文に反映しています。修正した箇所は元の記述を取り消し線で残し、追記箇所には【9月1日追記】と付しています(対象: 第3章GitHub節、示唆1〜3)。


目次
  1. 3ヶ月で何が変わったか — 6つの要点
  2. 1. 標準化の現在地 — AdCP 3.1 と AAMP 2.3、13機能で重なる二つの標準
  3. 2. Prebid Sales Agent 2.0 — 「GA未達・低6桁ドル」を自認しつつ、破壊的変更を伴う大型リリース
  4. 3. プラットフォームと代理店の動き — 「閉じたエージェント」が先に実用化する
  5. 4. 関連会社SEデジタルの実測 — 15週間の匿名巡回で見えた「発見可能性」の現在地
  6. 5. 日本市場の動き — 「運用のエージェント化」は進み、「取引プロトコルのエージェント化」はゼロ
  7. 6. 日本市場への示唆

3ヶ月で何が変わったか — 6つの要点

  1. 標準は「一本化」ではなく「二重化」した。 AdCPは3.0(4月)→3.1 GA(6月18日)→3.2ベータ(8月)と四半期ごとに進み、IAB Tech Labは自陣の取り組みを「AAMP」と命名して7月30日に2.3をリリース。8月19日にはIAB Tech Lab COOがLinkedIn上で「AAMPはインプレッション層のプロトコルではなく、計画から実行までを覆う傘(umbrella)フレームワーク」と反論し、両者は13機能で重複していると公言。「AdCP=キャンペーン層、AAMP=インプレッション層」という棲み分け論は、当事者自身によって否定されました。
  2. プラットフォーム各社は「自社の中で完結するエージェント」を出荷し、同時に「外部のAIから自社を操作させる口(MCPサーバー)」を開け始めた。 The Trade Deskは8月21日に「Ask Koa」をクローズドベータで公開し、27日にはKokaiの新版「Zuma」を全顧客へ展開開始(Koaの背後に6エージェント。同じエージェント群をClaude等の外部ツールから呼べるようにする方針も表明)。GoogleはAds Advisorに安全機能を追加し、Google Ad Managerにも「Ask Ad Manager」を投入。X(旧Twitter)は8月24日に23ツール(うち書き込み10)の「X Ads MCP」を公開し、Meta(4月)・Amazon(2月)に続いて外部エージェントから広告アカウントを直接書き換えられるようにしました。いずれも人間の承認、または「作成物は一時停止状態」を前提とした設計です。
  3. オープンな取引プロトコル側の「供給」は、匿名の発見経路ではほとんど増えていない。 SEデジタルが5月18日から毎週27のエージェント(Sales 22・Signals 3・Creative 2)を巡回した15週分のデータでは、在庫を返すエージェントは5→3件に減少(匿名で返す第三者Sellerは3→2件)。5月以降にRegistryへ追加された16件を8月28日に匿名で確認したところ、商品を返したのは2件でした。米国の第三者トラッカー(登録31件中、匿名で応答するのは10件)とも整合します。一方、認証済み環境の実取引は特定パートナー間の個別実証にとどまり、規模の開示はありません。
  4. 代理店ホールディングスが「自前のBuyer Agent」と「自前のキュレーション」に踏み込んだ。 WPP Mediaは動画向けBuyer Agentの標準化連合(Disney・Netflix・NBCUniversal等)を発表、Stagwellは「Stagwell Curate」を立ち上げ、PublicisはLiveRampを約22億ドルで買収しました。
  5. オークションの「コンテナ化」が、エージェントより先に取引の現場に入り始めた。 Index Exchange×Bedrock(4月)、Adform×Adsquare(ARTF初実装、5月)、Mediavine×SWYM(6月)、Magnite(8月)と、買い手のモデルをSSP基盤の内側で走らせる実装が相次ぎました。一方、公開GitHubで見る限り、オープン標準のコード貢献はScope3の1人と団体に集中しており、SSP各社の名前はほとんど現れません。
  6. 日本のパブリッシャー側の「エージェントに見つかる準備」は依然ゼロ。 日本の上位1,000ドメインをスキャンした結果、adagents.json を有効に設置している .jp ドメインは0件でした。一方で電通デジタル・博報堂DY・サイバーエージェント・LINEヤフーは「運用のエージェント化」で独自の動きを見せています。

1. 標準化の現在地 — AdCP 3.1 と AAMP 2.3、13機能で重なる二つの標準

AdCP: 3.0で「信頼」を組み込み、3.1でGA、3.2はもうベータ

AdCP(Ad Context Protocol)の開発ペースは、前回記事の時点からさらに上がっています。GitHubのリリース履歴を確認すると、以下の流れになっています。

バージョン日付主な内容
3.0.0初の安定版2026年4月22日全ての変更系リクエストに idempotency_key を必須化。RFC 9421 HTTP Message Signatures(Ed25519)を導入(3.0では任意)。ガバナンス文脈のJWS署名化。GDPR第22条/EU AI Act Annex IIIの制約をJSON Schemaに組み込み。メディアチャネルを9→20に拡張
3.1.0(GA)2026年6月18日「実運用向けの堅牢化」。分散型 brand.json、リリース精度のバージョンネゴシエーション、正規クリエイティブフォーマット、proposal(提案)ライフサイクルの精緻化
v2 EOL2026年8月1日v2系は完全に廃止
3.2.0-beta2026年8月18〜24日(beta.0〜6)CTV向け広告体験プロファイル、クリエイティブ形式別の配信内訳、MCPツール発見用の入力スキーマ、原子的な予算更新、認証・ガバナンス強化
4.0(ロードマップ)2027年初頭目標支出を伴う全操作でRFC 9421署名を必須化

公式のバージョニング方針では「マイナーはサイクル初期は6〜8週ごと、安定に伴い四半期へ。メジャー(破壊的変更)は最低18ヶ月間隔」とされていますが、パッチはほぼ随時で、8月だけで3.1系のパッチが9本(3.1.11〜3.1.19)出ています。後述するSEデジタルの実測でも、この改訂速度が「接続の維持コスト」として跳ね返ってくる様子が見えています。

AdCP側の統括団体AgenticAdvertising.org(AAO)は、公式サイトで 129+メンバー(2026年8月27日時点)を掲げています。ただし、第三者トラッカー(No Fluff Advisory、8月26日観測)によれば、公式Registryに登録された実装エージェントは31件(Sales 26 / Signals 3 / Creative 1 / Buying 1)。前回記事時点(5月15日)の全19件(うちSales 15件)からは増えましたが、tools/list に公開で応答するのは31件中10件、8件は認証必須、13件はエラーまたは無応答です。Buying Agentの公開実装は依然1件のみで、5月に指摘した「Buyer側も1社」という対称構造は変わっていません。

IAB Tech Lab: 「AAMP」と命名、2.3でAWS・Meta・GAM連携

IAB Tech Labは2026年2月26日、ARTF(Agentic Real Time Framework)やAgentic Audiencesなど分散していた取り組みを AAMP(Agentic Advertising Management Protocols) という名称に統合しました。3本柱は「Agentic Foundations」「Agentic Protocols」「Trust and Transparency(Agent Registry)」です。ARTF v1.0は2026年1月15日までのパブリックコメントを経て2月18日に最終更新され、v2.0の作業が始まっています(詳細は第3章「オークションのコンテナ化」で扱います)。

7月30日にリリースされた AAMP 2.3 の内容は以下の通りです。

  • エンタープライズ実装対応: Amazon Bedrock AgentCore、Databricks上でのデプロイに対応
  • プライバシー監査の組み込み: IAB Diligence Platform と SafeGuard Privacy をBuyer Agentのワークフローに統合。支出コミットの経路は決定論的・検証可能であることを要求し、閾値を超える取引は人間承認を必須とする
  • プラットフォーム対応拡大: Meta向け買付、Google Ad Managerレポーティングとの連携
  • Agentic Audiences v1.0の統合: LiveRampが寄贈したUser Context Protocolを起源とするオーディエンス仕様(2026年1月にv1.0到達)をAAMPに組み込み。オーディエンスのベクター埋め込みをOpenRTBビットストリームで運ぶ拡張と、Prebidモジュール対応
  • OpenDirect標準への完全準拠

Anthony Katsur CEOは「業界は既にAIエージェントで何が可能かを示した。今の焦点は、広告が実際に動く環境でエージェントを信頼できるものにし、エージェンティック広告を日常業務に移すことだ」とコメントしています。AdCPが「新しい会話型プロトコルを一から設計する」アプローチなのに対し、AAMPは「OpenDirect/OpenRTB/DSP連携という既存インフラにエージェントを教え込む」アプローチだ、というのが業界の整理です。

8月、「13機能で重複」— IAB Tech Lab COO自らが棲み分け論を否定

5月頃まで業界には「AdCP=キャンペーン層、AAMP(ARTF)=インプレッション層」という棲み分け理解があり、「両者は補完関係」とする比較記事が多く出ていました。8月19日、IAB Tech LabのCOO兼EVP Product、Shailley Singh氏はLinkedIn上の論考「Clarifying AAMP Scope: Why So Many “vs AdCP” Comparisons Miss the Point」で、これを正面から否定しました。要旨は以下の通りです。

  • 「AAMPは『インプレッション層のプロトコル』ではない。傘(umbrella)フレームワークである」。ARTFはAAMPの3本柱のうち「Agentic Foundations」に属する一部品にすぎず、ARTFをAAMP全体と取り違えるのが最も多い誤りだとしています
  • 多くの比較記事が犯す誤りを5つ列挙: ①ARTF=AAMPと誤認、②機能の重複を無視、③検証されていない「ハイブリッド構成」を提案、④「AAMPは計画・交渉も扱う」と書きながら「オークション内でしか動かない」と書く自己矛盾、⑤MCPを「広告の意味論を調停する層」と誤解(MCPは通信基盤にすぎない)
  • AAMPのBuyer Agentが扱う範囲として、ブリーフ処理・予算配分、複数Sellerの調査と価格交渉、監査証跡つきのディール予約、DMA/デイパート/CPP・CPM指定のリニアTV買付、クリエイティブ管理、成約後の変更までを具体的に列挙
  • AAMPの設計優先順位は「既存の広告の意味論(OpenDirect/OpenRTB/Deals API)の再利用」「配備済みインフラとの互換」「広告システムのレイテンシでの決定論的な実行」「段階的な業界採用」
  • 結論: 「AAMPとAdCPは、設計思想の異なる2つのエージェンティック広告フレームワークであり、きれいに分かれた2つの層ではない」

同論考は、両フレームワークが共通して扱う機能として以下を列挙しており、ppc.land(8月20日)はこれを13機能と数えています。

Buyer/Sellerエージェント、自然言語のキャンペーンブリーフ、在庫・商品発見、Seller発見、メディアプランニング、価格設定・交渉、ディール/オーダー作成、支出前の人間承認、オーディエンス発見・活性化、エージェントID・レジストリ、MCP/A2A通信、キャンペーンライフサイクル・レポーティング、リアルタイム/サーブタイム意思決定

統合や正式な棲み分け合意は発表されていません。Prebid.orgの新会長Joel Meyer氏(OpenX CTO)は8月24日公開のAdExchangerのインタビューでPrebidの「プロトコル中立」を明言する一方、同じインタビューで「エンジニアとしてはプロトコルは一つが常に最善だが、現実主義者としては常に複数存在する」とも述べています。10月13日のPrebid Summit(ニューヨーク)が、Prebidがどちらに軸足を置くかを見る次の節目になります。

なお、IAB Tech Labとは別組織のIAB(米国)も8月24日、「AIが関与したコンバージョンをどう計測し、誰に帰属させるか」の共通フレームワークを11月12日に公開すると発表しました(Digiday報道)。AIの影響を「認知・意図層(AIがコンテンツを提示する)」と「意思決定支援層(AIが購買判断を助ける)」に分ける構造で、8月3日公開の「Measuring Visibility in the AI Era」に続くものです。取引プロトコルの二重化とは別に、「エージェントに広告を出した結果をどう測るか」の標準化も動き始めました。

日本の事業者にとっての意味は明快です。「どちらが勝つか」を待つ姿勢は、2027年まで判断を先送りすることと同義になりました。実務的には、Sales Agent側はAdCP(Prebid Sales Agent)で売り口を立て、AAMPのAgent Registryにも登録するという「二重登録」が現実解として浮上しています。


2. Prebid Sales Agent 2.0 — 「GA未達・低6桁ドル」を自認しつつ、破壊的変更を伴う大型リリース

Prebid.orgがメンテナンスするSeller Agent参照実装 prebid/salesagent は、7月1日に v2.0.0 をリリースしました。ウェビナー時点のv1.7からの主な変更点は以下です。

  • BREAKING: create_media_buyidempotency_key が必須に(AdCP 3.0の要件に追随)
  • AdCP 3.1準拠の価格モデル: CPA課金、時間ベース課金を追加
  • BDD(振る舞い駆動)テスト基盤の導入、4トランスポートのカバレッジ

一方で、Prebid.orgは6月1日付の公式ブログ「How Prebid Is Bridging Seller and Buyer Agents」で、Seller Agentは依然としてGA(一般提供)に達しておらず、稼働している広告費は「低6桁ドル規模」であることを明記しています。「パブリッシャーは構造的に未準備。彼らのシステムは人的商談向けに構築されており、machine-to-machine通信向けではない」という課題認識は、5月のウェビナーでMike Racic氏が語った「プラットフォームはAPIを持っているが、パブリッシャーは持っていない」の延長線上にあります。

CEESAWは、この2.0系を自社のSales Agent(sales-agent.ceesaw.net)で本番稼働させ、5商品を公開しています。後述するSEデジタルのBuyer Agentからは毎週この自社Sales Agentにも接続しており、自社のSell-sideとBuy-sideを両方持つことで、仕様改訂の影響を双方向から観測できる体制になっています。実際、2.0.0リリース直後の7月6日の巡回から、Buyer側が従来どおりの形式で送っていた予算指定(budget)が受け付けられなくなり、自社Sales Agentへの create_media_buy(dry-run)が失敗し続けています。破壊的変更の「実害」を自社で先に踏んだ形です。


3. プラットフォームと代理店の動き — 「閉じたエージェント」が先に実用化する

The Trade Desk「Ask Koa」と「Kokai Zuma」— 8月21日にクローズドベータ、27日に新版を全顧客へ

The Trade Deskの動きは、2026年で最も注目されたエージェント発表の一つです。時系列で整理します。

日付出来事
4月21日Koa Agentsを発表。Stagwellが最初の採用パートナー。マーケターが目標を自然言語で記述すると、AIエージェントがプランニング・購入・最適化・測定を、実行前に人間の承認を得た上で遂行する設計。他社エージェントと接続する「Open Agentic Kit」の存在も業界メディアで報じられた
5月18日Digidayが詳細を報道。Koa Agentsは①メディアプランの取り込みと構造化、②キャンペーン構築、③クリエイティブのトラブルシューティング、④次のアクションの推奨が可能だが、現時点で広告の実購入は行わない。同誌は、3月のMarketecture LiveでJeff Green CEOが「Claudeからキャンペーンを作れるか」と問われ「クローズドベータ参加者なら可能」と答えた経緯も紹介
8月6日Q2 2026決算。売上高7.15億ドル(前年同期比+3%)、Jeff Green CEOは「売上成長は我々の期待を下回っている」としつつ、「エージェンティックは広告業界がこれまで目にする中で最大級の機会」と発言。Kokaiの次期進化版「Zuma」を予告
8月21日「Ask Koa」を発表。Kokai(Zuma)内の中央対話インターフェースとして、「まず一部の広告主に」クローズドベータで提供開始。初期の4エージェントは「ヘルプ&検索」「キャンペーン作成」「インサイト」「トラブルシューティング」。公式資料は「推奨はあくまで任意。Koaは次のステップを提案し関連ワークフローへ案内するが、最終決定はあなたが握る」と明記
8月27日「Kokai Zuma」を発表(Kokaiの新版。同日から全世界のKokai顧客へ順次展開)。Koa Assistantが束ねるエージェントは、上記4つに「フリークエンシー」「オーディエンス作成」を加えた6つに。キャンペーン作成エージェントは任意形式のメディアプラン(スプレッドシート)を読み込み、不足や矛盾を指摘して確認質問を返すが、公開前には人間の承認が必要。トラブルシューティングは診断と修正提案まで(自動適用は「後日」)。あわせて「Koa Optimizations」の予測モデル更新で平均CPA 32%改善(社内データ、62キャンペーンの新旧モデル比較、p<0.05。選定基準・信頼区間は非公開)、Lucid・NielsenIQのリフト調査のワンクリック起動、GeoLift、Audience Unlimited(世界のデータ提供者の70%超をカバー)を発表。8月26日にAdweekが報じた社内ロードマップ資料は「Ask Koaは今週アルファからクローズドベータへ」と記載(AdExchangerは「オープンベータ」と報じているが、TTD公式資料はクローズドベータと明記)。Kokaiの利用率は前四半期の85%から100%

重要なのは、Ask Koa/Koa Assistantが「自律的にメディアを買うエージェント」ではないことです。TTDが8月に出荷したのは、プラットフォーム内部の操作を自然言語で行う「閉じたエージェント(Closed Agentic)」であり、人間承認を前提にしています。一方でDigidayの取材に対し、TTDのSamantha Ross氏(プロダクトマーケティング担当シニアディレクター)は、同じエージェント群を、顧客が普段使っているAIツール(例としてClaude)から呼び出せるようにする方針を示しました。自社UIの独占をやめ、後述するMeta・X・Amazonと同じ「外部AIから操作させる口」を開く動きです。ただし、AdCP/AAMPのようなオープンな取引プロトコルへの正式参加は、本稿執筆時点(8月29日)でも一次ソースが確認できていません。

業界側の受け止めも割れています。Digidayが引く代理店幹部の評価は「AI機能では依然として競合に追いつく途上」(Collective Measures)と、「Solimar時代の操作性が戻った」(Goodway Group)が混在しており、Zumaは2023年のKokai(未完成のまま移行を強いた)の反省を踏まえた「破壊」ではなく「補修」のリリースとして受け取られています。32%のCPA改善も、ppc.landが指摘するように62キャンペーンのモデル比較であり、手法文書や選定基準は公開されていません。

Google — 広告主向け・パブリッシャー向けの両面でGeminiエージェントを投入

  • 5月20日 Google Marketing Live 2026: Google Adsのエージェント機能「Ads Advisor」(2025年12月に英語アカウントで一般提供済み)に3つのエージェント型の安全・ポリシー機能を追加。あわせてGoogle Ads・Analytics・Merchant Center・Marketing Platformを横断する対話型エージェント「Ask Advisor」を発表
  • 6月18日 Google Ad Manager「Ask Ad Manager」: Gemini搭載の対話型エージェントをGAMに直接組み込み、パブリッシャー向けにベータ提供開始。機能は①配信不振のトラブルシューティング、②自然言語でのカスタムレポート生成、③対話に応じた画面遷移。2026年内にGAM向けのREST APIとMCPサーバーを提供予定
  • 8月19〜25日 Google Ads API「Developer Toolkit」: 開発者向けには、公式の Google Ads API MCPサーバー(2025年10月公開。list_accessible_customers・GAQL searchget_resource_metadata の3ツールで読み取り専用、Googleホストのリモート端点はなくローカル/自前ホストのみ)、オープンな「Agent Skills」規格に沿ったGoogle Ads APIスキル(Antigravity・Claude Code・Codex・Cursor対応、8月19日更新)、そして8月25日リリースのDeveloper Assistant v4.0.0(AntigravityとClaude Codeで動くプラグイン構成。GAQLの検証、Protobufスキーマの参照、5言語のコード生成)を提供。Meta・Xが「書き込み可」のMCPサーバーを出す中、Googleの外部エージェント向け窓口は開発者向け・読み取り専用にとどめている点が対照的です

前回記事で「GAMがAdCP Agentを開発中」という情報をお伝えしましたが、GAMがまず出荷したのは自前のエージェントと、外部エージェントを受け入れるためのMCPサーバー計画でした。日本の大手パブリッシャーの多くがGAMを使っている以上、「GAMのMCPサーバーに、どのBuyer Agentが接続してくるか」が2026年下期の観測ポイントになります。

Amazon / Meta / Yahoo / Microsoft / X

  • Amazon Ads: 「Ads Agent」(自然言語でAmazon DSP・Amazon Marketing Cloudを操作)について、公式サイトはターゲティング推奨を使った広告主の65%で配信が改善、CPM平均18%減・CPA16%減、AMCのクエリ作成が数時間から数分に短縮、と公表。外部AIエージェントからAmazon Ads API(キャンペーン作成・更新、レポーティング、請求)を直接操作できる Amazon Ads MCP Server をオープンベータで提供。年次イベントunBoxed 2026は9月28〜30日開催予定で、次の大型発表はそこになる見込み
  • Meta: 4月末に「Meta Ads AI Connectors」(Metaホストの MCP サーバー mcp.facebook.com/ads と CLI)をオープンベータで公開し、ClaudeやChatGPTなど外部のAIエージェントから広告アカウントを読み書きできるようにしました。公式ドキュメントはレポーティング/広告作成・編集/カタログ/シグナル・データセット/トラブルシューティング/A/Bテスト・リフト調査/活動ログの7領域を列挙し、「書き込みツールは一時停止状態でエンティティを作成し、有効化の前にAIクライアントが確認を求める」と明記。7月29日のQ2決算で総売上608億ドル(+28%)。Advantage+の年間売上ランレートは750億ドル超(Susan Li CFO)で、複数ツールの併用で性能が複利的に伸びるとして採用深化を継続。2025年に報じられた「2026年末までの広告完全自動化」計画について、5〜8月に新たなマイルストーン発表は確認できず
  • Yahoo DSP: 1月に発表した「Yours, Mine, Ours」(Yours=広告主自身のAIモデルをMCP/APIで接続、Mine=Yahoo DSPネイティブのエージェント、Ours=両者の併用)のフレームワークを継続。6月18日には、クリエイティブ・計測・ターゲティング領域のサードパーティAIエージェントを一元的な認証環境で接続する「Agent Network」を発表。AdCP創設メンバー
  • Microsoft Advertising: 7月30日に「Copilot in Monetize」を強化。8月19日に新規キャンペーンでのMax CPC入札を10月1日から廃止し自動入札へ一本化すると発表(同時期にOpenAIもChatGPT広告の既定を自動入札「Maximize results」に変更)。8月21日には公式ブログ「How businesses win when AI does the shopping」(Shirley Chen氏、AI Commerce担当)でプレイブック「Prepare for the Age of AI Shopping」(MediaPostは「Agentic Playbook」と呼称)を公開。昨年のホリデー商戦でAI経由の来訪が前年比693%増、AIが世界の小売売上の20%(2,620億ドル)に影響、AI経由の来訪者は非AI経由より42%高く転換(いずれもAdobe Analytics調べ)、消費者の72%が1年以内のAI支援型ショッピングを想定、という数字を掲げ、「エージェントに発見される(Merchant CenterのAI対応フィード)」「選ばれる(Bing・Copilot上のAIネイティブ広告、Copilot Checkout、Brand Agent)」「何が効いたか把握する(ClarityのAI Visibilityインサイト)」の3優先事項と90日ロードマップを提示。8月19日には検索キャンペーン向け「AI Max」の全アカウント展開も開始しています。MediaPostによれば、Copilotは Target・Ulta Beauty・Stripe らが採用する Universal Commerce Protocol 上で小売と接続しています
  • X(旧Twitter): 8月24日に「X Ads MCP」を公開。X広告APIゲートウェイに組み込まれたリモートMCPサーバー(ads-api.x.com/mcpで、23ツール(アカウント・読み取り9、アナリティクス2、ターゲティング検索2、書き込み10: create_campaignupdate_line_itemactivate_campaignpromote_post 等)を公開。認証は広告主自身のOAuth 2.0トークン(ads.readads.writeoffline.access、アクセストークンは約2時間)で、対応クライアントとしてGrok・Grok Build・Claude Code・MCP SDKで自作したエージェントを明示。「キャンペーンとラインアイテムは常に一時停止状態で作成され、明示的に有効化するまで一切費用が発生しない」設計。Monique Pintarelli氏(SpaceXAI グローバル広告責任者)は「広告主が既に使っているAIツールの中に、フルファネルのキャンペーン管理を直接持ち込む」と説明。ppc.landは、計測(コンバージョン・アトリビューション・リフト)のツールが含まれていない点を指摘しています

整理: 「外部のAIから広告アカウントを操作させる口」— 主要プラットフォームのMCPサーバー比較

X Ads MCPの登場で、主要プラットフォームの「外部エージェント受け入れ口」が出揃いました。Meta・Xは「作成物は一時停止」、Googleは「読み取り専用」で安全側に倒す一方、Amazon・Adformは公式資料に安全設計の記述がありません。

プラットフォーム公開時期形態書き込み安全側の設計
Google Ads2025年10月公式MCPサーバー(ローカル/自前ホスト、Googleホスト端点なし)不可(GAQL検索・メタデータの3ツールのみ)読み取り専用
Amazon Ads2025年11月クローズドベータ → 2026年2月オープンベータAmazon Ads MCP Server可(キャンペーン作成・更新・削除、レポート、請求)
Meta2026年4月末オープンベータAds AI Connectors(MCP mcp.facebook.com/ads + CLI)可(キャンペーン/広告セット/広告/カタログ/オーディエンス)作成物は一時停止。有効化前にAIクライアントが確認
Adform2026年5〜7月FLOW MCPサーバー(800機能超)+公開スキルMCP経由で可。公開スキル(agentic-skills)は読み取り専用
X2026年8月24日X Ads MCP(リモート、ads-api.x.com/mcp可(23ツール中10)作成物は一時停止。有効化は別コール
The Trade Desk方針表明(8月27日)Koaのエージェント群を外部AIツール(例: Claude)から呼ぶ構想人間承認を前提
Google Ad Manager2026年内予定REST API+MCPサーバー(仕様未公開)

この表の含意は第6章の示唆3で扱いますが、一言でいえば、代理店側が自前のエージェント(Claude等)から複数プラットフォームのアカウントを横断操作できる環境は、2026年8月時点でほぼ整いました。残る論点は「誰が、どの承認フローで、有効化ボタンを押すか」です。

SSP・エクスチェンジ — MCP開放と「オーケストレーション層」で横並び

前回記事以降、主要SSPはほぼ例外なく「外部AIエージェントから自社基盤を操作できるMCPサーバー」と「Buyer AgentとSeller Agentを自社基盤上で仲介する調整レイヤー」のどちらか、または両方を発表しました。5〜8月の動きを一覧にします。

企業日付内容
PubMatic4月23日 / 8月5〜6日AdRollとMCP連携(Buyer側AIがPubMaticの配信診断データに直接クエリを投げ、ディールの配信不振を診断・切り分け)。Q2決算(売上7,860万ドル、+11%)に合わせ、AgenticOSが80件超の自律キャンペーンを10万超のプロパティで実行し、フィー効率を最大50%改善と発表。ppc.landは、AdCPトラフィックに独立した検証ガードレールを設けた例としてPubMaticを挙げている
Magnite6月11日 / 8月5日 / 8月6日「Magnite Orchestration」(Buyer側エージェントをMagniteのSeller Agentに接続する調整レイヤー。ベータパートナーはdentsu、DIRECTV Advertising)。Q2決算は売上1億9,280万ドル(+11%)、CTV Contribution ex-TAC +36%。8月6日にブログ「Bringing Intelligence Into the Auction」リアルタイムデータとコンテナ化(後述)を提唱
Index Exchange4月21日DSPのBedrock Platformが、コンテナ化したビッダーをIndex Cloud上で直接実行(後述)
OpenX4月14日 / 6月23日 / 8月「The Intelligent SSP」へ再ポジショニング。買い手の意思決定をカスタマイズするAI/機械学習スイート「OpenX IQ」を発表。8月にCTOのJoel Meyer氏がPrebid.org会長に正式就任(それ以前は暫定会長)。Meyer氏はAdExchangerのインタビューで、Prebidは競合するエージェント標準に対し「プロトコル中立」の立場を取ると表明
TripleLift4月21日 / 6月18日供給・クリエイティブ・オーディエンス・計測・最適化を統合する「TL Spark」。TL DirectはUI/API/MCPの3経路でアクセス可能
Nexxen6月16日 / 8月12日MCPおよびA2A経由で外部AIエージェントをnexAIに接続。監査可能な意思決定と人間定義のガードレールを明示。Q2決算は売上1億50万ドル(+11%)、CTV +33%
Adform5月13日 / 5月27日 / 7月8日Adform FLOW(DSP・アドサーバー・DMP・ID Fusion)をMCPサーバー経由で開放し、Claude・ChatGPT・Copilotから800以上の機能を直接操作可能に。Adsquareと ARTF(Agentic Real Time Framework)の業界初実装 を発表。7月にはIAB Tech LabのAAMPを軸とするオープン標準へのコミットメントを再表明
FreeWheel(Comcast)3月11日〜MCPサーバーと分析ツール群からなる「AI Agent Infrastructure」を発表し、PMGとパイロット。WPP Mediaの動画標準連合にも参画
Kargo3月31日 / 5月28日エージェント型メディア買付基盤「Project KERA」のクローズドベータ(Hershey、Wpromote等)。ChatGPT広告のテクノロジーパートナーに
Taboola4月 / 5月13日 / 8月5日「Realize+」(予算再配分のDecision Engineとクリエイティブ・ターゲティング生成のElement Generator)。Anthropic Claude Skillsとの統合。自社調査で「広告主の76%がエージェンティックAIで成果改善を実感」。Q2売上4億7,680万ドル(+2.4%)、通期ガイダンス上方修正
Teads(Outbrain統合)6月 / 8月6日編集レコメンドとネイティブ・プログラマティック需要をフィード内で統合する「EngageOS」を発表(Outbrain側の「Amplify MCP Server」は2025年公開)。Q2売上2億8,460万ドル(−17%)、通期ガイダンスを一時停止
Mediavine6月16日SWYMとの提携拡大。18,000超のパブリッシャーサイトのビッドストリームにAIネイティブな意思決定モデル(supply shaping)を適用。50以上のブランドが参加
BidMachine6月22日「Direct Placements」拡大と「Agentic Readiness」パイロット。プロトコル非依存のインターフェース層でBuyer Agentとの取引に対応。20以上のデマンドパートナーが取引中
Adzymic5月20日「AgenX Creative Agent」と「Agent as a Service」サブスクリプション。IAB Tech Lab Registryに「AgenX MCP」として登録
Broadsign(DOOH)5月27日 / 6月22日Sell-Side AI AgentでGlobal Netherlands・Draft Digitalと「DOOH初のエンドツーエンド・エージェンティック・キャンペーン」を実施。6月には店舗内サイネージでも同様の事例を公開
Media.netIAB Tech Lab Agent & MCP Server Registryに「Media.net MCP」(カテゴリSSP、sell-side curation)を登録。対外的な製品発表は確認できず
Amazon Publisher ServicesAmazon Ads MCP Server(上述)に加え、6月11日に「agentic shopping」構想(Alexaを軸にした統合体験)を発表

Google Ad Managerについては、6月18日の「Ask Ad Manager」(前述)以降、パブリッシャー向けのREST API・MCPサーバーは「2026年後半に提供予定」のままで、8月末時点で仕様は未公開です。買い手側(Google Ads)の対応と比べ、パブリッシャー側インフラの遅れが目立ちます。

オークションの「コンテナ化」— 知能をオークションの内側へ持ち込む

エージェント間取引(AdCP)と並行して、セルサイドではもう一つの構造変化が進んでいます。買い手のモデルやロジックを、SSPのオークション基盤の内側でコンテナとして実行する「コンテナ化」です。

Magniteは8月6日のブログ「Bringing Intelligence Into the Auction: Real-Time Data, Containerization and Smarter Supply」で、コンテナ化を「アプリケーション、AIモデル、アルゴリズム、ビジネスロジックを、持ち運び可能で自己完結した環境にパッケージする」ことと定義しました。買い手・DSP・データパートナーが自前のモデルをコードや知財を開示せずにSSP基盤へ持ち込み、ミリ秒単位でSSP基盤上で実行する構想です。同社はIAB Tech LabのTrusted Server、LEAP、Curation Frameworkを「知能をオークションに近づける」潮流の一部として挙げ、Omnicom Media、SWYM.ai、Chalice AI、inPowered AIの声を紹介しています。

IAB Tech Labの側では、この構想は ARTF(正式名称: Agentic Real Time Framework) の中核概念として仕様に明文化されています。公式ページの記述を引用すると、「このモデルは、ホストのインフラにデプロイされるコンテナを活用し、ビッドストリーム処理の重要な部分をサービスエージェントに委譲できるようにする」「フレームワークは、コンテナのランタイム挙動に対する標準要件を確立し、信頼性が高く保護されたプライベートなビッドストリーム変更を可能にするAPIを定義する」とあります。ARTF v1.0は2026年1月15日までパブリックコメントに付され、2月18日に最終更新、v2.0の作業も始まっています(8月下旬の業界報道は「確定版1.0」と表現していますが、公式ページ上に確定日の記載はありません)。

5〜8月の実装事例を並べると、「エージェント」より「コンテナ」のほうが先に取引に近いところまで来ていることが分かります。

日付企業内容
4月21日Index Exchange × Bedrock PlatformDSPのBedrockが、ビッダーをコンテナ化して Index Cloud上で直接実行(「世界初のコンテナ化DSP」)。InterMedia Group、Bay Street Media、Navigatorが初期テストに参加。Andrew Casale CEO「知能がインプレッションに近づくとき、これまで規模を制約してきた条件は崩れ始める」
5月27日Adform × Adsquare「業界初のARTF実装」。外部のデータ・シグナル提供者が、標準化されたプライバシー保護層を介して Adform DSPの入札環境内で自前のエージェントを動かす。Adsquareのジオ・オフラインデータを、オフプラットフォームでのデータ共有なしに入札時点で適用
6月16日Mediavine × SWYM18,000超のパブリッシャーサイトで、SWYMのモデルが入札リクエストを事前評価し、買い手に提示するインプレッションを絞り込む「pre-bid supply shaping」。50以上のブランドが参加
6月11日Magnite OrchestrationBuyer側エージェントをMagniteのSeller Agentに接続する調整層(dentsu、DIRECTV Advertisingがベータ)
8月6日Magnite「リアルタイムデータとコンテナ化」を提唱(上述)

このほかOpenXは、2025年5月から「OpenX基盤上でコンテナ化されたエンリッチメント・サービスを動かすためのテンプレート」(openx-enrichment-service-template)をGitHubで公開しており、最終更新は2026年7月25日です。主要SSPの公式GitHubでコンテナ化を直接扱う唯一のリポジトリです。

コンテナ化とAdCPは、同じ「知能をサプライ側に寄せる」流れの中の別レイヤーです。AdCPが「キャンペーン単位で何を買うか」をエージェント同士が交渉する層なら、コンテナ化は「インプレッション単位で誰の判断ロジックをオークション内で走らせるか」の層で、既存のOpenRTB取引の上に載ります。IAB Tech Lab COOが「AdCP=キャンペーン層、AAMP=インプレッション層」という棲み分けを否定したのは前述の通りですが、実装の現場では、Adform(ARTF)とMagnite・Index Exchange(独自実装)のようにインプレッション層の取り組みが先に動いています。

GitHubから見る各社の「本気度」

発表の派手さと実装の公開量は比例しません。主要SSP・関連団体の公開GitHubを2026年8月28日時点で確認した結果を整理します(gh api による取得。非公開リポジトリは見えないため、痕跡がないことは取り組みがないことを意味しません)。

組織公開リポ数2026年に更新エージェント/コンテナ関連の公開リポ(括弧内は最終更新日)
IABTechLab7045buyer-agent(直近3ヶ月146コミット)、seller-agent(同163)、agentic-real-time-framework(ARTF本体、同6)、agentic-audiencesiab-agentic-primitivesAAMP リポは4月16日以降更新なし
adcontextprotocol108adcp(8月27日更新)、各言語SDK(TS/Python/Go/Java)
prebid5820salesagent(8月27日更新)
OpenX14839openx-enrichment-service-template(7月25日。2025年5月作成)
Adform124agentic-skills(8月14日。2026年6月作成。GraphQL MCPサーバー経由でAdform FLOWを操作する読み取り専用スキル)
PubMatic147pubmatic-mcp-server(7月30日。2025年9月作成)
Scope31912agentic-client(7月21日。2025年10月作成)
MagniteEngineering2613該当なし(prebid/salesagent に1名がコミット)
Yahoo20619該当なし
Index Exchange812該当なし
Media.net2610該当なし(IAB Tech Lab Registryに「Media.net MCP」を登録)
Equativ / Sovrn / FreeWheel / TripleLift3〜120〜2該当なし
Kargo / Nexxen公式orgなし

コントリビュータの所属を見ると、AdCPの中核リポ adcontextprotocol/adcp は全4,539コミットのうち Scope3のBrian O’Kelley氏個人が3,799件(84%)prebid/salesagent も1,766コミットのうち同氏が1,308件(74%)を占めます。SSP各社からの直接コミットは、prebid/salesagent にMagniteの1名、IAB Tech Labの agentic-audiences にPubMaticとLiveRampの各1名が確認できる程度です。IAB Tech Lab側の buyer-agent / seller-agent は活発ですが、主要コントリビュータは受託開発会社と所属不明のアカウントで、SSPの名前はここにも現れません。

読み取りは二つです。 第一に、オープンな標準の実装は「団体と少数の個人」が牽引しており、SSP各社は自社基盤(MCPサーバー、オーケストレーション層、コンテナ実行環境)の整備を優先している。第二に、Index Exchangeのようにプレスリリースは最も具体的でもGitHub上の痕跡がない企業と、OpenXのようにプレスリリースにコンテナ化の語がなくても実装テンプレートを公開している企業があり、「発表」と「実装」は別々に確認しないと各社の進捗を見誤ります

【9月1日追記】 この節の数字に対して、公開後に次のご指摘をいただきました。「AdCPは実態としてScope3の社内プロジェクトに近く、『オープン標準』と呼ぶには正統性の裏付けが現時点では薄い。SSPがコードを書かないのは、自社のMCPサーバー・オーケストレーション層・コンテナ実行環境に投資した方がテイクレートを守れて合理的だからだ。標準化競争に見えて、実際は『誰が取り分を取る層に立つか』の争いである」。コミット分布の実測と完全に整合する読みであり、本節の結論をより明確にする整理として、そのまま追記します。

DSP・データ・計測 — 「MCP/A2A対応」が2026年の標準装備に

企業日付内容
DoubleVerify6月17日認知型AIエンジン「DV Neura」。MCP・Anthropic Claude連携の「Insight Agent」は提供開始済み、広告主設定のパラメータ内でキャンペーン変更を自動実行する「Activation Agent」はQ3提供予定。年初来でAI生成コンテンツサイトの5億インプレッション超をブロック
Integral Ad Science1月〜説明可能性を原則とする「IAS Agent」(Databricks Agent Bricks上に構築)を全ユーザーに無償提供。5〜8月の新規発表は確認できず
StackAdapt7月28日 / 8月19日「Ivy Studio」。プランニング・予測・分析・最適化・実行を単一のエージェント駆動サーフェスに統合。社内で週15,000件のAI支援ワークフローを処理。8月19日には調査レポート「The AI Delegation Gap」(北米・EMEA・APACのマーケター500人+自社顧客187社、5〜6月調査)を公開。AIに「推奨」させることは90%、「承認待ちで準備」は89%が許容するが、「ルール内で自動実行」は78%、「実績があっても自律実行」は50%まで落ちる。プラットフォーム内のAI推奨を「ほぼ常に実行する」と答えたのはわずか6%
Mediaocean6月11日「NIVO AI」。Innovidエージェントでキャンペーン設定の速度を最大90%改善。ブリーフ・メール・スプレッドシートを直接トラフィッキングに接続
Zeta Global6月18日「Athena by Zeta」をエージェンシー向けに拡大。2.45億人の識別グラフ上のエージェント。Insights & Measurementのベータをagency partner向けに開始
Viant1月〜「Outcomes」(Lattice Brainによる自律最適化)を継続展開。5〜8月の新規発表は確認できず
Basis Technologies4月2日ブリーフを戦略・メディアプランに変換しプログラマティック・検索・ソーシャルの実行に接続する「Compass」
Optable3月〜IAB Tech Lab Registryに「Optable Audience Agent」を登録(3月時点で唯一のPrivateデプロイ)。Audience Agentの利用がQ1→Q2で89%増、顧客数は倍増と報告
Experian4月30日消費者とAIエージェントを検証可能に結びつける「Experian Agent Trust」(human-to-agent binding)
Criteo5月〜8月24日ChatGPT広告の出稿ブランドが6月に2,000超(5月の倍)、英国・日本・韓国へ拡大。8月24日には欧州31市場へ拡大し、「Prompt Smart Ads」で約4倍の出稿額リフト、新規顧客比率80%超と発表
Swivel8月Olyzonと、AdCP経由のAgent-to-Agent CTV活性化。構造化ブリーフを直接やり取りし、承認・トラフィッキング・活性化を自動化。AAO Registryで唯一のBuying Agent
Boostr6月9日Seller AgentでVox MediaとAdCP取引を実施(第4章で詳述)
Scope36月2日 / 7月1日Adloox売却でInterchangeへ集中。7月1日「Agentic Ad Budgets Are Live」でSellerのStorefront開設は無料、Buyerはアクセスに対価を支払うモデルを明示。2月には人員削減も報じられた

AIプラットフォーム側 — 「Claude + MCP」が事実上の共通基盤に

  • Anthropic自身は広告業界向けの発表を行っていませんが、The Trade Desk(Koa Agentsのクローズドベータ。Zuma発表のブリーフィングで外部ツールの例としてClaudeを挙げた、とDigidayが報道)、DoubleVerify(DV Neura Insight Agent)、Taboola(Claude Skills)、Adform(Claude/ChatGPT/Copilotからの操作)、X Ads MCP(公式対応クライアントにClaude Code)、Google Ads API Developer Assistant v4.0.0(Claude Code対応)など、各社のエージェントの接続先や実行基盤としてClaudeとMCPが繰り返し登場します。AdCP自体もMCPを基盤に設計されています
  • OpenAIのChatGPT広告は、Criteo・Kargoなど外部アドテクを経由して急拡大し、8月19〜20日には既定の入札を自動入札「Maximize results」に変更しました。日本への展開はCriteo経由の発表で確認できますが、OpenAI自身の一次発表は確認できていません
  • Perplexityは2月に広告事業から撤退し、5〜8月も再参入の発表はありません

代理店ホールディングス — 自前のBuyer Agent、自前のキュレーション

  • WPP Media「Agentic Standards Initiative」(6月18日、Cannes Lions): WPP Open上に「Buyer Agent for Video」を開発中。Comcast Advertising(FreeWheel)、Disney、Fox、NBCUniversal、Netflix、Paramount、IAB Tech Lab、Prebid.orgが参画し、リニアTV・CTV・プレミアム動画向けの技術・ワークフロー・ガバナンス標準を策定。パートナーとのアルファ/ベータ検証は開始済みで、今後6〜9ヶ月で大規模なTV・動画投資に耐える段階へ移行し、2027年初頭に業界標準を共有予定。前回記事でお伝えした「WPP自社Buyer Agent」構想が、動画領域で連合体に発展した形です
  • Omnicom(4月29日): CTO Paolo Yuvienco氏が「複数クライアントで、当社のエージェントフレームワークを使った実際のメディア買付を実行した」と発言。1月のCESで発表した「新Omni」(IPG統合後の自律エージェントシステム)を第1四半期に全社展開
  • Stagwell Curate(7月16日): 事前審査済みプレミアム在庫のマーケットプレイスと、ブランドが自前でディールパッケージを組むbespokeキュレーション基盤。The Trade DeskのSincera(供給品質データ)を利用。Matt Adams氏(Stagwell Media Platform Global CEO)は「DSPの機能が収斂し、プラットフォームが買い手を自社マーケットプレイスへ誘導する中で、差別化は供給側に移る。Stagwell Curateは我々の知見をDSPの上に置く」と説明
  • Publicis Groupe(5月17日): LiveRampを企業価値約22億ドル(1株38.50ドル、全額現金)で買収すると発表。「smarter agents向けデータ共創の加速」と位置づけ。4月にはMicrosoftとの提携拡大(Epsilonのデータで駆動するエージェント群、旅行業界パイロットでROAS 2倍)も発表
  • dentsu(グローバル): 「dentsu.Connect」を「業界初の真にアジェンティックなAI運用OS」として刷新。Magnite Orchestrationのベータパートナーにも参画
  • PMG: IAB Tech Lab Registryに「PMG Alli Buyer Cloud Agent MCP」(Agencyカテゴリ、Privateデプロイ)を登録。FreeWheelのAI Agent Infrastructureのパイロットパートナー

Katsur CEO(IAB Tech Lab)自身のCannes Lions総括レポートでは、「規模の小さいパブリッシャーはBuyer Agentに見つけてもらうことが生き残りの生命線になるためエージェンティックに前のめりだが、大手パブリッシャーは(CTVを除き)より慎重に動いている」という見立てが示されています。

整理: 「閉じたエージェント」と「開いたエージェント」の二層構造

3ヶ月の発表を俯瞰すると、エージェンティック広告は明確に二層に分かれてきました。

実体状態(2026年8月)
Closed Agentic(プラットフォーム内エージェント)Ask Koa/Koa Assistant(Kokai Zuma)、Ads Advisor、Ask Ad Manager、Amazon Ads Agent、Yahoo DSP Agentic AI、Advantage+、DV Neura、Ivy Studio、NIVO AI出荷済み〜ベータ。人間承認を前提に、既存プラットフォームの操作を自然言語化。すぐ使える
Closed Agentic の外部露出(プラットフォームのMCPサーバー)Meta Ads AI Connectors、X Ads MCP、Amazon Ads MCP Server、Adform FLOW MCP、Google Ads API MCP(読み取り専用)、TTD(Claude等からKoaを呼ぶ構想)、GAM(年内予定)オープンベータ〜GA。代理店・広告主が自前のエージェントから各社アカウントを横断操作できる。Meta・Xは「作成物は一時停止・有効化は人間」を明文化
Open Agentic(プロトコル経由のエージェント間取引)AdCP/AAMP、Prebid Sales Agent、Scope3 Interchange、WPP Open Buyer Agent、Magnite Orchestration、Swivel標準は二重化。Prebid Seller Agent経由の実売上は低6桁ドル、その他は規模非開示。プロトコルは四半期ごとに改訂。供給側の整備が追いついていない

広告費が実際に動いているのは、現時点では圧倒的に前者です。後者は「2027年の本番に向けた仕込み」の段階にあります。


4. 関連会社SEデジタルの実測 — 15週間の匿名巡回で見えた「発見可能性」の現在地

前回記事で紹介したSEデジタルのBuyer Agent接続検証は、その後、毎週月曜0時(UTC、日本時間9時)に27のエージェントを自動巡回する定点観測に移行しました。前回記事の検証対象は16件でしたが、5月16日に巡回リストを27件へ拡張しています。内訳は、AAO公式Registry掲載のSales Agent、adagents.json 経由で発見したパブリッシャー直結のSales Agent(Vox Media、Medal.tv)、AAOが運営する公式Test Agent、Yahoo DSPやScope3インフラ上のSales Agent群、CEESAWの自社Sales Agent、およびRegistry掲載のSignals/Creative Agentで、合計27件(Sales 22・Signals 3・Creative 2)を固定リストとして、5月18日から8月24日まで15週分のデータが蓄積されています。

何を測っているか — そして何を測っていないか

結果を読む前に、この検証の範囲を正確に示しておきます。

測っているのは、「既存の取引関係を持たないBuyer Agentが、公開情報だけを頼りにSellerを発見し、在庫を取得できるか」です。 本検証は設計上、Sellerごとの認証申請を行わない匿名条件に固定しています。例外は、AAOが公開しているテスト用トークンで接続する公式Test Agentと、自社発行トークンで接続するCEESAWのSales Agentの2件で、この2件だけは認証済みの経路です。

匿名で測ることに意味があるのは、AdCPの仕様がそう設計されているからです。get_products タスクの仕様書(v3.1.2)は認証を 「Optional(認証なしの場合は限定的な結果を返す)」 と定義しており、Registry APIの公開エンドポイント(解決・発見・検索)も認証不要とされています。つまり「知らない相手でも発見でき、限定的にでも在庫が見える」ことは、オープン標準が約束する価値そのものです。匿名リクエストに0件や401で応える運用は仕様違反ではありませんが、仕様の想定からは外れた運用だと言えます。

測っていないのは、「認証済みのBuyerなら同じSellerから在庫を取得できるか」です。 仕様上、認証すれば結果が広がるSellerは当然存在します。したがって本検証の「匿名で0件」は「そのSellerに供給がない」ことを意味しません。この限界を踏まえ、本章の結論は「匿名の発見経路で観測できる供給」に限定します。

週次推移: 在庫を返すエージェントは5件→3件、うち匿名は3件→2件に減少

initialize成功在庫応答(商品1件以上、認証済み2件を含む)仮想交渉成立主な変化
5/1822 / 2752Vox Media 61商品、Medal.tv 70商品、Adzymic APX 2商品、CEESAW 5商品、公式Test Agent 6商品
5/25〜6/816 / 2752Scope3インフラ上のSales Agent群(Weather・AccuWeather・Raptive・Optable・TripleLift)がinitialize失敗に
6/15〜6/2915 / 2752
7/615 / 2751CEESAW自社Sales Agent向け create_media_buy(dry-run)が失敗開始。prebid/salesagent 2.0.0(7月1日)で予算指定の受け付け形式が変わったため
7/1314 / 2741Medal.tvが401(認証必須)化。5月に匿名で70商品を返していた在庫が到達不能に
7/20〜8/314 / 2741
8/1013 / 2741
8/1714 / 2730公式Test Agentが get_products を入力検証で拒否buying_mode フィールド)。同エージェントとの仮想交渉も停止
8/2414 / 2730Vox Media 61→62商品
8/27(本稿執筆時の再測定)14 / 273Vox Media 62商品、CEESAW 5商品、Adzymic APX 2商品

在庫応答の「5件」には認証済みで接続している公式Test Agent(ダミー6商品)と自社CEESAWが含まれます。匿名で商品を返す第三者Sellerに限ると、Vox Media・Medal.tv・Adzymic APXの3件から、Vox Media・Adzymic APXの2件に減りました。 Medal.tvの認証必須化は当社の単独観測で、第三者による同様の報告は確認できていません。

SEデジタル Buyer Agent 週次巡回の推移

出典:SEデジタル Buyer Agent 週次巡回ログ(2026年5月18日〜8月27日)

固定リストの外側: 5月以降にRegistryへ追加された16件

上の推移は5月16日に固定した27件の内側の話です。AAO公式Registryはその後31件(Sales 26)まで増えており、5月以降に追加された16件は週次巡回の対象外でした。本稿執筆にあたり8月28日に、この16件へ同じ匿名条件で単発の接続確認を行いました。

結果件数内訳
匿名で商品を返した2Cora AI Sales Agent(4商品、FAST CTV等)、No Fluff Advisory Sales Agent(5商品)
接続はできるが在庫取得は認証必須7Optimera Prebid Seller Gateway と、その配下のWebMD・TheWrap・Bustle Digital Group・Trusted Media Brands・Carpenter Media Group・Mediatonik(「tenant policyにより認証必須」)
接続はできるが商品0件2goTom Sandbox(在庫取得は401)、teqblaze(0件)
initialize自体が4015InMobi Sales Agent、InMobi NonProd、LoopMe、Pubx、Purrsonality

注目すべきは、WebMD・TheWrap・Bustle・Trusted Media Brandsといった米国の有力パブリッシャーが、Optimera社の運用するPrebid Seller Agentのゲートウェイ経由でRegistryに登録されたことです。前回記事の時点でRegistryにはこの規模のパブリッシャーはいませんでした。ただし、いずれも匿名では在庫に到達できません。Registry全体で見ると、匿名で到達できる在庫は「減った」のではなく「増分がごく小さい」と読むのが正確です。固定27件の内側で2件減り、新規16件で2件増えた、というのが8月末の全体像です。

米国の第三者観測と突き合わせる

当社の数字が日本からの観測固有のものでないことは、米国の独立トラッカーと比較すると分かります。No Fluff Advisory社が毎日ポーリングしている「AdCP Ecosystem Tracker」(2026年8月26日観測)は、AAO公式Registryの登録エージェント31件のうち、匿名で tools/list に応答するのは10件、8件は一覧取得の段階から認証必須、13件はエラーまたは無応答と報告し、「登録されていることと発見可能であることは、まだ同じではない」と結論づけています。

両者の指標は同じではありません。No Fluffの「10件」はツール一覧に応答した数であり、当社の「3件」は実際に商品を返した数です。当社でも initialize に成功したのは14件で、そこから商品到達まで絞り込むと3件になります。指標の粒度は違っても、「Registryの登録数が増えても、匿名のBuyerが到達できる在庫はごく一部」という結論は一致しています。

もう一つ、Vox Mediaが匿名で62商品を返し続け、新規登録のCora AIやNo Fluff Advisoryも匿名で商品を返していることは、「仕様どおりに限定的な結果を公開する」運用が現に成立していることを示します。Vox MediaのSales AgentはPrebid Sales Agent(AdCP 3.1.1)で稼働しており、6月9日にはBoostr社のSeller Agentとの間で、交渉・予算配分・配信スケジュール・クリエイティブ入稿までを自動化したAdCP取引を実施したと発表しています(Vox Media側の運用チームがアドサーバー上で最終確認する工程は残っています)。匿名で発見可能にしているパブリッシャーが、認証済みの実取引でも先行している、という関係です。

認証環境では何が起きているか

では、認証済みの経路では供給は潤沢なのでしょうか。5〜8月に公表された実取引の事例を並べます。

日付事例開示されている規模
4月29日Omnicom CTO Paolo Yuvienco氏「複数クライアントで、当社のエージェントフレームワークを使った実際のメディア買付を実行した」クライアント名・媒体・金額は非開示
6月1日Prebid.org公式ブログ: Seller Agentで稼働している広告費は「低6桁ドル規模」
6月3日InMobi × Scope3がGlance在庫(3億台)向けSell-Side Agentを稼働。「2026年末までに1日数百件のエージェント取引」を予測実績値は非開示
6月9日Boostr × Vox MediaのAdCP取引(上述)金額・インプレッション数は非開示
7月1日Scope3「Agentic Ad Budgets Are Live」: Sellerは無料でStorefrontを開設でき、「Buyerは Interchange へのアクセスに対価を支払う取引高・接続Seller数は非開示
8月Swivel × Olyzon: AdCP経由のAgent-to-Agent CTV活性化非開示

共通するのは、いずれも特定のパートナー間で個別に組まれた実証であり、規模を示す数値が公開されていないことです。「認証すれば誰でも買える」状態ではなく、Scope3 Interchangeのように認証環境そのものが有料の会員制ゲートになっている場合もあります。認証を得る手順も標準化されていません。Yahoo Sales Agentが公開しているエージェントカードは、アクセス申請先としてオンボーディング用メールアドレスを記載しており、機械同士の取引の入口が人手のメール申請になっています(同カードはAdCP 2.5.0対応と記載されており、8月1日にEOLを迎えたv2系のままです)。

プロトコル側の動きもこれと整合します。AdCP 3.1では AUTH_REQUIRED エラーが「訂正可能な AUTH_MISSING」と「終局的な AUTH_INVALID」に分割され、認証情報をタスク引数に紛れ込ませるリクエストをSellerが拒否すべきとする CREDENTIAL_IN_ARGS が新設されました。エラー分類の精緻化は、認証が取引の前提として設計に組み込まれつつあることを示唆します。なお、AAOの「AdCP Verified」は3.0時点では自己申告(self-attestation)ベースで、第三者監査を意味するものではありません。

3ヶ月の読み取り

第一に、匿名の発見経路で観測できる供給は、ほとんど増えていません。 Registry登録エージェントは19→31件(Sales Agentは15→26件)に増えましたが、固定27件の中で匿名で商品を返す第三者SellerはVox MediaとAdzymic APXの2件に減り、新規登録16件で匿名到達できたのはCora AIとNo Fluff Advisoryの2件でした。5月に匿名で70商品を返していたMedal.tvは、7月13日以降、認証必須になりました。

第二に、認証の壁は「開く」方向には動いていません。 5月時点で「認証スキームの未整備」を課題に挙げましたが、その後、少なくとも1件のSeller(Medal.tv)は認証必須化に転じ、新規登録の大半(16件中12件)は最初から認証を前提にしています。Buyer Agentは「Registryを巡回すれば買える」のではなく、Sellerごとにトークン発行を人手で申請して回る運用が前提になります。認証済みの経路で在庫がどこまで広がるかは、本検証の範囲外です。

第三に、仕様改訂そのものが接続を壊します。 8月17日の週に、公式Test Agentの tools/list が51→56ツールに増え(list_products / request_proposals / refine_proposals / decline_proposals の追加)、翌週には60ツール(buy_products / accept_proposal / control_media_buy の追加)へ拡張されました。AdCP 3.1で精緻化された「proposal(提案)ライフサイクル」が公式Test Agentに実装された形ですが、同時に従来の get_products リクエストが入力検証で拒否されるようになり、当社Buyerからの在庫取得が止まりました。この2件は認証済みの経路で起きた失敗であり、認証があっても仕様追随を怠れば接続は壊れることを示しています。CEESAW自社Sales Agent向けの create_media_buy も、7月1日のprebid/salesagent 2.0.0リリース直後から、従来の予算指定が通らなくなっています。Seller側とBuyer側の両方でライブラリ更新のたびに再検証が必要であり、「随時パッチ・6〜8週から四半期ごとのマイナー」のケイデンスは、そのまま接続維持の運用コストになります。

日本のパブリッシャー: 上位1,000ドメインで adagents.json は「0件」

供給側の準備状況を測る指標として、/.well-known/adagents.json(パブリッシャーが「自分の在庫を売ってよいSales Agent」を宣言するファイル)の設置率を、日本市場で網羅的にスキャンしました。このファイルは公開情報であり、認証の有無に関係なく観測できます。

  • 母集団: 日本向け入札リクエスト上位1,000ドメイン(2026年8月5日時点、直近7日間の実測)+補完1件=1,001ドメイン
  • スキャン日: 2026年8月6〜7日
  • 結果: 有効な adagents.json(JSONとして妥当、かつ authorized_agents が1件以上)は 3 / 1,001。内訳は yahoo.com・weather.com・accuweather.com で、いずれも米系パブリッシャーです
  • .jp ドメインでの有効設置は 0件。JSONファイル自体を置いているものの authorized_agents が空という例(gamerch.com)が1件あるのみ
  • HTTPの内訳は404が789件、200を返すが中身がHTMLなど有効なJSONでないもの(soft-404)が64件、403が49件

SEデジタルが5月17〜18日に実施した予備スキャン(未公開データ)では、日本向け上位500ドメイン中の有効設置は4件(0.80%。yahoo・weather・medal・accuweather、全て外資系。米国向け上位500でも同じ4件)でしたが、母集団を倍にしても状況は変わっていません。日本のパブリッシャーは、Buyer Agentから「発見される」ための最初の一手(テキストファイル1つの設置)をまだ誰も打っていない、というのが実測結果です。


5. 日本市場の動き — 「運用のエージェント化」は進み、「取引プロトコルのエージェント化」はゼロ

5〜8月に日本企業から出た主な発表を整理します。

日付企業内容
4月20日LINEヤフーAIエージェント「Agent i」提供開始。法人向け「Agent i Biz」は2026年8月からの提供を予告
5月25〜26日電通デジタル国内電通グループ4社名義で「AI For Growth 3.0」の下、統合AIプロダクトを提供開始(25日)。電通デジタルの「∞AI MC Planning」に「Execution Agent」を追加(26日)。10種類の専門マーケティングAIエージェントをAPI経由で外部AIツールから呼び出せる体制
6月18日サイバーエージェント日本で始まるChatGPT広告のパイロットに向け、「極予測TD」で広告向けクリエイティブアセットのバリエーション生成に対応
6月18日JIAA2026年度事業計画を発表。「AIの導入活用が広告手法・業務・取引に大きな影響を与える」と記述し、データ利用ガイドライン改定を方針化。ただし「AIエージェント」「エージェンティック広告」という語は登場せず
6月29日博報堂DYホールディングス「株式会社Ads for Humanity」(4月設立)の事業開始を発表。World ID(人間認証)を用い、AI・ボットを排除して人間にだけ届く広告を配信する人間認証型アドネットワーク
6月11日dentsu(グローバル)Magnite Orchestrationのベータパートナーとして参画

米国の潮流が「AIエージェントに見つけてもらう」「エージェントに買ってもらう」方向に振れる中で、博報堂DYの「人間にだけ届く広告」は明確な逆張りです。エージェントが情報を消費し購買を代行する世界では、「人間の目に触れたインプレッション」の希少性が上がるという読みであり、日本発の切り口として海外でも注目に値します。

一方で、AdCP/AAMPという取引プロトコルへの参加、adagents.json の設置、Sales Agentの立ち上げ、AAOやIAB Tech LabのAgent Registryへの登録といった「オープンなエージェント取引」への参加は、本稿執筆時点で日本企業から一件も確認できませんでした。JIAAの事業計画にも該当する記述はありません。日本市場の現状は「Closed Agentic(自社プロダクト内のエージェント化)は進み、Open Agentic(プロトコル経由の取引)はゼロ」と要約できます。


6. 日本市場への示唆

1. 「どちらの標準が勝つか」は待たない。薄く両方に触れる

AdCPとAAMPは13機能で重なり、統合の予定はありません。2027年初頭にはAdCP 4.0(署名必須化)とWPP Mediaの動画標準が同時期に出てくる見込みで、2026年下期は「準備」、2027年が「本番」というスケジュール感です。パブリッシャー・SSPは、Prebid Sales Agent(AdCP準拠、Apache 2.0、Prebidメンバーシップ不要)でSell-sideの口を立てつつ、IAB Tech LabのAgent Registryにも登録する「二重登録」を前提に計画すべきです。片方に賭けてもう片方を無視するコストのほうが、両方に薄く触れるコストより高くなっています。

2. パブリッシャー: adagents.json「日本初」を取れる →「誰との接続テストを目的にするか」を決めてから

.jp ドメインでの有効な adagents.json は0件です。テキストファイル1つを /.well-known/ に置くだけで、Buyer Agentからの発見可能性を宣言できます。ただし前回記事で述べた通り、その先には認証フローの設計・商品メタデータの整備・OMS連携という「Agentic Role」の仕事が待っています。SEデジタルの実測では、日本向け上位1,000ドメインで設置済みだった3件のうち、Buyer Agentから実際に在庫まで到達できた先は0件でした(Yahooは認証必須、Weather・AccuWeatherは5月下旬以降TLS接続の段階で切断)。設置と同時に、外部のBuyer Agentからの接続テストを受け入れる体制を組むことを勧めます。CEESAWの自社Sales AgentとSEデジタルのBuyer Agentは、そのための検証環境として稼働しています。

【9月1日修正】 設置すれば「日本初」を取れる、を推す書きぶりにしていましたが、公開後に次のご指摘をいただき、示唆を修正します。「Sales 26に対してBuying Agentの公開実装は1件のまま。売り口ばかり増えて買い手がいない状態は、設置を勧める根拠を弱める。『設置しよう』より『設置した上で、誰との接続テストを目的にするのか決めましょう』の方が現実的」。これはその通りで、当社自身がSales Agentを公開していても、匿名で到達してくるBuyerがSEデジタルの巡回以外ほぼ観測されないという実測とも一致します。設置は依然として最小コストの一手ですが、目的は「日本初」ではなく「特定の相手との接続テスト」に置くべきです。

3. 代理店: 「閉じたエージェント」は今日から使える。「開いたエージェント」はOrchestration層経由で

Ask Koa/Kokai Zuma、Ads Advisor、Ask Ad Manager、Yahoo DSPのエージェント機能は、いずれも人間承認を前提とした設計で、既存の運用フローにそのまま組み込めます。運用担当者の役割は「設定する人」から「エージェントの提案を承認・却下する人」へ移ります。承認基準(予算閾値・ブランドセーフティ条件・除外リスト)を社内文書として明文化しておくことが、導入の前提になります。

さらに8月には、Meta・X・Amazonの「外部AIから広告アカウントを操作させる口」が揃いました。代理店は自社のエージェント(Claude等)から複数プラットフォームを横断してキャンペーンの作成・編集まで行えます。MetaとXは作成物が一時停止状態で生成されますが、有効化は1コール(Xの activate_campaign、Metaの ads_activate_entity)です。Amazonの公式資料には、同種の安全設計の記述がありません。「誰が有効化を押すか」「AIクライアント側の確認ダイアログを社内承認として扱うか」を決めないまま接続すると、承認フローが実質的に消えます。StackAdaptの調査で「実績があってもAIの自律実行を許容する」マーケターが50%にとどまり、プラットフォーム内のAI推奨を「ほぼ常に実行」するのが6%しかいないという結果は、日本でも同じ状況になると見るのが自然です。

一方、オープンなプロトコル経由の買付は、生Registryを匿名で叩いてもほとんど在庫に届きません(Registry全体31件のうち匿名で商品を返すのは、8月末時点で当社の確認では4件)。Sellerごとの認証申請を人手で回すか、Scope3 Interchange(Buyerは有料)、Magnite Orchestration、WPP Open(WPP系列のみ)といったOrchestration層に乗ることが現実解です。dentsuがMagnite Orchestrationのベータに入っているのは、この文脈で読むべき動きです。

【9月1日追記】 公開後の議論を踏まえ、デマンド側の見立てを補足します。Meta・X・AmazonがMCPで「書き込み可」の口を開けた時点で、代理店は自前のエージェントから複数プラットフォームを横断操作できるようになりました。つまり、AdCP/AAMPを採用しなくても「Closedのまま」の相互運用が成立してしまうということです。オープンプロトコルが解こうとしている「発見と交渉」は、突き詰めればオープンインターネットのロングテール在庫にしか存在しない問題であり、Katsur CEOの「小規模パブリッシャーほど前のめり、大手は慎重」というCannes総括とも整合します。日本はオープンインターネットへの広告支出がそもそも小さいため、標準化の決着が見えない段階でデマンド側がAdCP/AAMP対応を早期に進める判断は正当化しにくく、当面はプラットフォーム依存の投資が先行すると私たちは見ています。この構図が続くほど、オープンインターネット側の経済性は苦しくなります。日本の上位1,000ドメインで adagents.json が0件という実測は、「残された側」の準備がまだ始まってもいないことを示しています。

4. 仕様追随コストを予算化する

AdCPは8月だけで3.1系パッチが9本、v2は8月1日にEOL、Prebid Sales Agent 2.0は破壊的変更を含み、公式Test Agentは2週連続でツール構成が変わりました。当社の巡回スクリプトも7月と8月にそれぞれ1箇所ずつ壊れています。「一度つないだら動き続ける」前提は成り立ちません。Sales Agent・Buyer Agentを運用するなら、四半期ごとの再検証工数と、ライブラリ更新時のリグレッションテストを最初から予算に組み込む必要があります。

5. サプライチェーン検証の価値が上がる

Stagwell CurateがTTDのSinceraを、AAMP 2.3がIAB Diligence Platformを組み込んだように、エージェントが買う世界では「その在庫は本当に買ってよいものか」を機械的に検証する層が取引の前段に必須になります。ads.txtsellers.jsonadagents.json の整合性検証は、人手の商談では営業担当が暗黙に担っていた信頼の確認を、プロトコルの一部として明示化する作業です。日本の供給側でこの検証を先に整備した事業者が、Buyer Agentから最初に選ばれることになります。

6. SSP・アドネットワーク: 「エージェント対応」より先に「コンテナ受け入れ」を設計する

日本のSSP・アドネットワークにとって、Seller Agentの公開よりも先に問われるのは、買い手のモデルを自社オークション内で安全に実行できるか(ARTFが定めるコンテナのランタイム要件とビッドストリーム変更API)です。Index Exchange、Adform、Magnite、OpenXの動きは、「在庫を売る口」ではなく「知能を受け入れる器」を先に作る順番を示しています。日本のSSPがこの層で遅れると、海外DSPのモデルを国内在庫で走らせる経路を持たないまま、キュレーション層(Stagwell Curate、SWYM、Chalice AI型)に取引の主導権を渡すことになります。

7. 情報収集の起点は引き続き無料

Prebid Agentic Working Groupは2026年末まで非メンバーでも参加可能で、議事録と録画は公開されています。AAOのAcademy、IAB Tech LabのAAMP仕様(GitHub公開)も無料で読めます。次の観測ポイントは、9月末のAmazon unBoxed 2026、GAMのMCPサーバー提供開始、AdCP 3.2 GA、そしてWPP Media動画標準のベータ移行です。


本記事の出典は、本文中の該当箇所にリンクしています(2026年8月29日時点で確認)。SEデジタルの実測データは、Buyer Agentの週次巡回ログ(2026年5月18日〜8月27日、27エージェント)、AAO Registry新規登録16件への匿名接続確認(8月28日)、日本向け上位1,000ドメインの adagents.json スキャン(8月6〜7日、母集団は8月5日取得)に基づきます。